1枚300円の最高級海苔もある? 佐賀の名産物・海苔について、海苔師について聞いた! 佐賀の海苔は日本一!(関係者談)ということだぞ!
佐賀には、うまいものが多い! 魚も肉も野菜もうまいのですが、中でも感動するのが「海苔」です。東京の食通たちが、佐賀の海苔に「感動した!」と連呼する姿を、何度も垣間見てきました。また、日本の台所と言われる築地市場でも、佐賀の海苔は最高級品として扱われています。食事の主役を彩ることは少ない「海苔」ですが、この機会に海苔について見直したい……! そこで、佐賀の海苔がどうしてそんなにおいしいのか、有明海漁業協同組合の西久保敏組合長にお話を伺ってみました!
組合長の西久保さん。ご自身も代々続く海苔漁師(海苔師)です!
佐賀の海苔がうまいのは、有明海があるからだった!
――佐賀の海苔は全国のシェア1位で、日本の海苔生産量の25%を占めるとか。なぜ、佐賀の海苔はそんな人気があるんでしょうか?
西久保 佐賀の海苔は、まず海が違う! 有明海は多くの河川からのミネラル豊富な栄養塩が流れ込む恵み豊かな漁場なんです。
あとは、普通の海苔は海面に海苔の網を浮かべるように育てる浮き流し式が多いんですが、佐賀の海苔は海に立てた支柱に網を張る支柱式という手法で海苔を作るんです。なぜかというと、有明海は、干潮と満潮の差が最大で6メートルもあり、日本で一番干満差が大きい海なんですね。干潮時は水面に出た海苔が光合成してうまみを蓄え、満潮時は海の中の栄養をたっぷり吸収するから成長する。海水に浸る時間と太陽の光に当たる時間がたっぷり交互にあるので、海苔がおいしく育つんです。
支柱式の海苔の漁場。
――有明海という日本唯一の海で育つからこそ、佐賀の海苔はうまいんですね。
西久保 やわらかさが違う! うま味も強いし、口の中に入れると、ほろっと溶けるような甘味があります。また、つやのある黒紫色も特徴ですね。佐賀の海苔はセブンイレブンさんの手巻きおにぎりにも使われているんですが、直巻きの方には使えないんですよ。佐賀の海苔は、直巻きのまま放置すると、柔らかすぎて溶けてしまうんですね。
梅雨終了時に雨量1000ミリ以上の年は、海苔がうまくなる
有明海に浮かぶ、海苔の漁場
――海苔には旬はあるんですか?
西久保 海苔の収穫は11月ごろから行われて、秋海苔と冬海苔の二期作を行います。同じ海苔から秋海苔は3~4回、冬海苔は多いときで10回ぐらい収穫します。その中でも、「一番摘み」と言われる1回目の収穫時の海苔が一番柔らかくておいしいんですよ。2回目、3回目以降に収穫した海苔もおいしいけど、どうしても海苔が成長することで、厚みが出てくるから、柔らかさは減っていきますよね。
――九州は台風が多い印象がありますが、海で育てる海苔に影響はないんですか?
西久保 海苔はだいたい9月から3月が養殖~収穫のシーズンなんですが、そのころに台風は来ないので、特に影響はないんですよ。あと、台風が来ると悪いことばっかりじゃないんですよね。台風のおかげで、海の中がまざるから。有明海は途中までガタ(干潟)でしょ? ガタの表面3~5センチに、海苔がおいしくなる栄養がいっぱい入っている。台風のおかげで、その栄養が海水に混ざるから、栄養分豊かな海になるんです。
――じゃあ、台風があった年は海苔がおいしくなるとういことですか?
西久保 そうですね。あとね、梅雨時期に雨量が1000ミリを超せば、海に栄養分が十分に蓄えられて、海苔は豊作ですね。あと、逆に雪が降りすぎれば海苔が赤くなってしまうけど、寒いと海苔がじっくりと成長することで味も凝縮され、おいしくなる。こればっかりは自然相手だから、こちらで調整できないんですよね……。
1枚300円の最高級海苔「佐賀海苔®️ 有明海一番」とは?
――佐賀の海苔は全部でランクが約200種類くらいあると聞きましたが、その中でも、最高級ブランドと言われる「佐賀海苔有明海一番®️」ですね。
西久保 これは本当においしいです!!! 佐賀で作られたたくさんの海苔の中で、ほんの一握りのトップに輝いた海苔が「有明海一番」なんです。「有明海一番」、は、毎年、一番摘みと言われる最初に収穫された海苔から選ばれます。そして、その海苔のやわらかさ、色、つや、味ですね。それぞれの基準に対して、プロの審査員たちが、1枚1枚風味やくちどけをチェックする食味検査を行い、審査を潜り抜けた最高級品だけが「有明海一番」と認定されるんです。
――「有明海一番」に認定される確率はどのくらいなんでしょうか?
西久保 0.03%くらいじゃないですかね。佐賀の海苔師(海苔を育て、作る人々)の多くが、「一生で一度は、自分のところの海苔が『有明海一番』に選ばれたい!」と思うほどに、難しいです。一度も認定されない海苔師も、ザラですよ。
――価格はどのくらいなんですか?
西久保 一般流通としては、1枚300円くらいで売られていますね。
――すごい値段ですね。食べてみていいですか? ……あ、本当に全然違いますね。口の中で溶けるし、味をつけなくてもうま味がすごい……。こんな海苔を食べたのは初めてです!! 西久保さんも海苔師ですが、「有明海一番」に認定されたことは?
西久保 うちは何度か認定されてます。今年も入りましたね。息子のお手柄です!
高収入だと噂の海苔師、その実態は……?
――佐賀の海苔の消費量って、いまどうなってるんでしょうか?
西久保 残念なことですが、この30年間で減少しています。それは、海苔師と呼ばれる生産者が減ってるから、なかなか供給が追い付かないんですよ。そのくらい後継者不足が深刻な問題になっています。
――下世話な話で恐縮なのですが、佐賀の海苔師はすごく儲かると聞きました。人によっては年間の水揚げが1000万円、2000万円はくだらない……とか。
西久保 アハハハ! 金額は個人差があると思いますが、昔に比べて海苔師の収入が安定していることはたしかです。その要因は、海苔師になる人が減っているからです。海苔養殖の漁場の面積は昔と変わらないのに、生産に関わる人は半分くらいになっている。その分、一人当たりが担当する面積は広がっているから、必然的に収入も増えるわけです。500人分の畑を250人で分け合うと、規模が大きくなるでしょ? だから、収入も安定するわけです。
海苔師は、よき商売といえば、よき商売。半年間は、寒い日に朝も夜も海苔を見に行くから大変だけど、漁がないときは準備や片付けの合間に旅行にも行けますよ。最近は、UターンやIターン、娘のお婿さんが海苔師になったという話も聞きます。興味がある人は、ぜひ有明海の海苔師を目指してほしいですね!
――海苔師によって、作る海苔の味は全然違うんですか?
西久保 全然違いますね。海苔師は、1日に2回、干潮が来るわけです。その際に「このノリはちょっと乾き過ぎだから、少し網を下げようか」「今日は曇りだから海苔が乾くのに時間がかかりそうだから、もう少し網を高くしよう」とか、そういう調整が入ります。上手な人だと、おいしい海苔が育ちます。
海苔師が教えるおいしい海苔の見分け方。それは「穴」だった!
――西久保さんも海苔を作る海苔師さんとのことですが、おいしい海苔の見分け方ってどんなものですか?
西久保 まずは、「〇等級」という表示があるかどうかですね。この「〇等級」の海苔は、小穴がたくさん空いてるんですね。これは、細胞壁が柔らかい証拠。柔らかいから、板海苔として乾燥させたときに組織が縮んで、穴があくんです。見た目は悪いけど、柔らかくて風味もつよくて、高品質です。
――佐賀に行ったとき、おいしい海苔が食べられるお店はありますか?
西久保 まず、JF佐賀有明海直販所「まえうみ」では、「有明海一番」をはじめ、いろんな海苔が売っています。新鮮な海苔を使った佃煮とかも売ってるので、ぜひ食べてみてほしいです。本当においしいので!
直売所「まえうみ」で作られている生のりの佃煮。うま味の塊で、ご飯に合う!
のりを使ったマヨネーズ「のりネー酢」をはじめ、多数の海苔商品があり。ムツゴロウの丸干しもあります!
こんな海苔専用の保存袋が販売されているのも、佐賀ならでは……!
佐賀の海苔のおいしい食べ方は……?
――佐賀の海苔の一番おいしい食べ方を教えてください!
西久保 やっぱり、私が好きなのは焼き海苔かな……。軽くあぶって食べれば、それだけで十分です。あと、刺身に巻いて食べたりもします。焼きのりの一番最高の食べ方は、朝ご飯のとき、焼きのりに普通の醤油をちょっとつけて、炊き立てご飯を海苔で巻いて食べる。それだけあれば、茶わんで何杯でもご飯が食べられます。お茶の缶なんかに入れて、湿気させないのがコツです。あとは、海苔ってどんな料理にでも合うんですよ。うちでは味噌汁に入れるし、私の孫なんかは、カレーライスとかにも海苔をちぎってかけて食べてますね。
――カレーライスに海苔……! 今度やってみます!
佐賀の名物・バルーンフェスティバルにちなんだ巻き寿司。海苔の名所ゆえ、巻き寿司文化も盛ん
海苔師しか食べられない幻の海苔・生海苔
西久保 あとは、生海苔という生産者しか食べられない海苔があるんです。これは、酢醤油とゴマで食べるんですが、本当にうまいですね。採ったばかりの海苔は、本当に味が全然違います。
――佐賀県内でも食べたことがない人も多いという、幻の海苔ですね……!
西久保 みなさんから「食べたい」とお声をいただくんですが、生のりは鮮度が命だから、どこかに送ったりできないんです。市場にはほとんど流通していないので、食べたい方は、海苔師と知り合いになって、収穫時に海まで行くのが一番です。次回のシーズン中、お昼に来てもらえれば、食べられますよ。
――いいんですか! ありがとうございます、楽しみです! その際は、ぜひ生海苔の食レポートをさせてください!
最後に……、海苔ができるまでを大公開!
最後に、佐賀の海苔がどうやってできるのか。その一連の作業工程を、写真で大公開します!
【種付け】
海苔の種付けが行われます。この際、1種類の種ではなく、「うま味が強いもの」「色がいいもの」など、種を組み合わせることがおいしい海苔を作る上で重要だとか。
【網洗い】
網が汚れると海苔がうまく育ちません。そこで、海苔の成長を助けるため、定期的に網を洗います。
【冷凍入庫】
実は、海苔は二期作制。種付けして、海苔の種を植えて、5cm程まで育った後、一部の網を引き揚げて、乾かしてから冷凍保存します。そして、一期目(秋芽網)の収穫が終わった年末年始頃に冷凍した網を取り出して、再度、海で育てます。
【摘採】
そして、海苔の芽が15~20㎝に育ってきたら、いよいよ海苔の収穫「摘採」です! なんと昔は手作業で行われていたそうですが、現在は機械で摘み取りができるようになり、作業負担も軽減されたとか。
【成型】
収穫された海苔は、一枚分の量に分けられ、四角い海形にすかれていきます。
【乾燥】
大型の海苔製造機械で、温風にあてて海苔を乾燥させ、一般的に知られる「海苔」を製造します。そして、この後、検査や格付け、入札を経て、出荷されていきます。
※海苔の格付け検査及び入札状況等については、現状コロナ対策も含めてマスクの着用と衛生管理上の帽子の着用、アルコール消毒を実施した上で作業を行なっております