九州の醤油が甘い理由から、佐賀県民なら誰でも知ってる「うどん」スープや1404円の高級レトルトカレーまで一挙紹介! 佐賀県が誇る醤油メーカー「宮島醤油」直撃してみました!
佐賀県唐津市に本拠地を構える醤油メーカー「宮島醤油株式会社」。佐賀県民なら誰でも知っている老舗メーカーですが、現在では醤油・味噌のみならず、さまざまな商品を展開中。筆者(中川淳一郎)が2020年11月から唐津市に住み始めてから気付いたのが、「佐賀のスーパーでは中華麺よりもちゃんぽん麺が多い」ということで、野菜も肉も魚介類もたっぷり摂れるちゃんぽんにハマってしまいました。スーパーの麺コーナーでは宮島醤油のちゃんぽんの粉末スープが普通に置いてあり、これを使えば手軽にちゃんぽんを作れる。しかし、そこで疑問が……。
なぜ、醤油メーカーがちゃんぽんを作っているのだ……? しかも、「唐津くんちカレー」など、レトルト食品も作っている。さらに、
twitterで更新している「宮島醤油株式会社【公式】@miyajimashoyu」は、2.7万人のフォロワーを持つ人気アカウントとしても知られています。
不思議な会社が地元にあるなァ。ならば取材するか! と、そこで、今回は、醤油に関する素朴な疑問から、ユニークな商品の特色までを伺うべく、宮島醤油本社の広報担当者にお話しを伺いました!
佐賀県民なら誰でも知ってる! 明治15年創業の老舗企業「宮島醤油」
――宮島醤油さんは、九州では有名な醤油メーカーとして知られていますね。いつから唐津にあるのでしょうか?
宮島醤油は、明治15年に佐賀県唐津市で醤油・味噌を作り始めたのが創業のきっかけです。現在では、総合食品メーカーとして醤油や味噌といった発酵食品製造のほかに、レトルト食品、ちゃんぽんスープやスパイスなど加工食品や各種調味料も製造しています。また自社商品だけではなく、他社から委託を受けるOEM/ODM生産も日本全国に向けておこなっています。
唐津市内にも大きな「宮島醤油」の工場が。この「宮」マークが目印です!
――九州限定かと思われつつも、宮島醤油の商品は全国的に流通しているんですね。宮島醤油さんでは、濃口、淡口、再仕込醤油まで、いろんなお醤油を発売されていますが、一番代表的な商品はどれですか?
「ばら本醸造あまくち醤油」です。九州の醤油は甘いのが多いのですが、「ばら醤油」は、すっきりした甘みが特徴で、煮物、炒め物、だし、たれなどあらゆる用途で活用できるのも特徴ですね。
九州の嗜好に合わせた口あたりまろやかで甘口の本醸造濃口醤油。酸化を防ぐ二重構造ボトルも採用。トレードマークは中央にある赤いバラ。
あとは、「佐賀しょうゆ」。こちらは佐賀でとれた丸大豆と小麦を使った、高級路線のものです。「ばら」に比べると甘さは押さえているので、イメージとしては関東の醤油に近いかもしれません。なお、こちらの醤油は「甘味」よりも「うま味」を強調していますね。
「佐賀しょうゆ」は、肥沃な佐賀の畑で栽培された丸大豆と小麦を使った醤油。まろやかで深い旨みと豊かな香りが特徴。
――「うま味」ですか?
醤油は、甘さの違いもありますが、うま味の濃さによって味が変わるんです。醤油のうま味を決めるのは「窒素濃度」、つまり、アミノ酸の含有量ですね。アミノ酸が多いほど、うま味は増えます。うま味が多いものから順番に、「特級」「上級」「標準」と等級が変わるんですね。「佐賀しょうゆ」は、一番上の特級なので、窒素量、すなわちアミノ酸の量が多くて、うま味が強いんですね。丸大豆を使った高級な醤油なので、お刺身など、より醤油の味を強く味わいたいというときに、使っていただきたいと思います。
なぜ、九州の醤油は甘いのか?
――他県から九州に来た人が最初に驚くことといえば、やはり醤油の味です。九州の醤油が甘い理由って、どうしてなんですか?
昔、長崎から荷揚げされた砂糖の影響だと言われています。当時、外国から輸入された砂糖が、長崎の貿易港から佐賀や小倉を通って、京都や大阪、江戸へと運ばれていったのですが、その道は、いまでも「シュガーロード」とも呼ばれています。砂糖がほかの地域よりも手に入りやすかった影響なのか、九州は全体的に甘い味付けが好まれる傾向があり、醤油自体も甘い味付けになったのかなと思います。
シュガーロード。江戸時代、西洋との窓口だった長崎の貿易港から佐賀や小倉を通って、京都や大阪、江戸へ砂糖が運ばれた。沿線には今も砂糖文化が根付いている。2020年に「日本遺産」に認定。
あとは、甘い醤油は魚料理と相性がいいのも理由のひとつでしょうね。土地の素材と相性が良かったのも、甘い醤油が生まれた理由のひとつかなと思います。
――九州の中でも、醤油の味に違いはありますか?
あまり意識したことはありませんが、どちらかというと九州でも北部よりも、鹿児島や宮崎などの南部の方が、味付けが甘くなるとも言われていますね。たとえば醤油にはしても、鹿児島には黒糖で作った黒糖醤油などもありますから。私たちのお客様にしても、九州北部の方が多い印象がありますね。佐賀や長崎、福岡。あとは、山口、広島など中国地方のお客様も多いです。
味噌が甘いのは、麦やお米の割合が多いから
――ちなみに、九州は味噌も甘いような気がしますが、これって気のせいですか?
東北や新潟、長野など北日本の味噌に比べると甘いです。
――やっぱり! こちらも、砂糖が入っているんですか?
いや、砂糖は入ってないんですよ。味噌が甘くなるのは、大豆よりもお米や麦の割合が高くなっているからなんです。簡単に言えば、味噌は大豆をメインにすると、甘味は減るけれども、たんぱく質によってうま味が出るんです。反対に、米や麦を多く使っていると、米の甘さと麦の香ばしささを持った味噌になります。九州は味噌も甘めが好まれるので、米や麦の麹(コウジ)の配分量が多いのではないかと思います。ちなみに、関東や東北は米の配分が多い米味噌がメインですが、九州は麦の産地なので麦みそが多いんですよね。
宮島醤油で最近人気が高いのが、佐賀県でとれた大麦、大豆、米と玄界灘の海塩だけで丹念に仕込んだ合わせみそ「佐賀無添加みそ」。
ちゃんぽんスープとうどんスープ、人気はどっち?
――ちなみに、宮島醤油さんで一番人気の商品はどれですか?
粉末の「うどんスープ」と「ちゃんぽんスープ」ですね。これは40年以上ロングセラーの看板商品で、九州の人ならばパッケージを見ればすぐ「あぁ、知ってる」と思うと思います。醤油メーカーが作っている印象がないのか、よくお客様から「これを買ったことはあるけど、宮島醤油で作ってるとは知らなかった」と言われることも多いですね。
「うどんスープ」は、サッとお湯に溶かすだけで本格派うどんつゆができる優れもの。5袋1パックから。
ポークエキス、野菜の粉末をベースに、だしを使用した本格的な「ちゃんぽんスープ」。こちらも佐賀県内の家庭ならば、台所に常備している人も多いはず。
実はパッケージが変わっていたちゃんぽん&うどんスープ
――九州の人は、うどんやちゃんぽんをよく食べるんですね!
もちろんスープとして使われる方も多いですが、万能調味料的に使われる方も多いですね。たとえば、うどんスープは、九州の人の嗜好に合う色が薄いスープですが、野菜炒めや茶碗蒸しの味付けなどに使われる方もいらっしゃいます。ちゃんぽんスープの方は、チャーハンなどにも使えます。
あと、同僚の中には「中華丼のあんかけの味付け用に使う」という人もいましたね。台所のどこかの引き出しに入れておけば、ささっと料理したいときにすぐに使えるので、いつでもストックしているという声もよく聞かれます。
――「うどん」も「ちゃんぽん」も両方ともスーパーでよく見かけますが、どちらの方が人気なんでしょうか?
数的に売れ行きが良いのは、うどんスープですかね。でも、どちらも甲乙つけがたいです! そういえば、お気づきの方もいるもしれませんが、少しパッケージがリニューアルされたんです。
――え、気が付きませんでした!
(以下、旧パッケージ)
(以下、新パッケージ)
ーーあ、本当ですね……!!
現物を見ていただくとわかるんですが、文字の並びを変更して、少し斜めになり、横置きでも縦置きでも文字を読むことができるデザインになりました。微妙な変化ではありますが、売り場のスペースに合わせて置き方が選択できるようになりました。
ーーホスピタリティがアップしたんですね……!
佐賀牛の高級カレーから、岩下の新生姜カレーまでバラエティ豊か
ーー宮島醤油さんは、レトルトカレーも作られていますが、佐賀にちなんだカレーも多いんですよね。
宮島醤油では地域の優れた食材を活用した商品を開発し、生産・販売を行う「地産地工(ちさんちこう)」事業に取り組んでいます。
その中で、佐賀にちなんだカレーも製造しています。代表的なものは、「佐賀牛カレープレミアム」ですね。これは、佐賀の特産物である佐賀牛®をじっくりソテーして、風味豊かなスパイスと共に煮込んだ逸品です。本当に豪華で、おいしいです……!
ご当地自慢の佐賀牛®や佐賀県産和牛を使った各種カレーや混ぜご飯。遠くにいながらにして、佐賀の味を気軽にいつでも食べられるのが特徴。
ーーこちらはお値段1404円の、高級レトルトカレーですよね! 以前、一度食べたことがあるのですが、味はもちろんですが、本当に肉がゴロゴロ入っていて絶品でした。あと、鶏肉がおいしくて感動したのが「唐津くんちカレー」です。
「唐津くんちカレー」は、宮島醤油がある佐賀県唐津市で毎年11月に開催される唐津神社の秋季例大祭「唐津くんち」にちなんで作ったものですね。14台の曳山にちなんで、14種類のスパイスを使っています。唐津らしさのあるパッケージなので、お土産などとしても好評です。
14台の曳山がずらりと並んだ華やかなパッケージで人気を博す「唐津くんちカレー」。中身は欧州風のチキンカレーが食べられるが、こちらも美味!
――あと、宮島醤油さんは変わり種のカレーも多いですよね。一番びっくりしたのは、「岩下の新生姜カレー」です。なぜ、岩下の新生姜を使ったカレーを作ろうと思ったんですか?
実は、我々は2000年に栃木県の宇都宮市に工場を開設しました。OEM生産がメインの工場で自社商品は製造していませんでしたが、宇都宮工場で働く社員の「宇都宮ならではの自社商品がほしい」という声がきっかけとなって生まれたのが、「宇都宮野菜餃子カレー」です。その後、「餃子の具シリーズ」や「岩下の新生姜カレー」などを発売しています。これを機会に、関東、ひいては全国での知名度も上げていければと思っています。
宇都宮名物の餃子や栃木県の有名メーカー岩下食品「岩下の新生姜」とのコラボ商品がずらり。佐賀から始まる味覚の新境地を、ぜひ体験したい。
老舗企業でありながら、新機軸を常に開拓
ーーいろいろと果敢な挑戦をされていますが、新商品の開発が楽しそうですね。開発はどんな風に行われているんですか?
自社商品の開発は商品企画部門、開発部門、営業部門がそれぞれ役割分担しながら共同でおこなっています。とくに開発部門のスタッフは、甘味・酸味・旨み・塩味・苦味・無味を識別する味覚テストを定期的に受けています。それらスタッフが知恵を絞った新商品が、1年に2回、3月と9月に5~6品発売されています。
ーー最近、食のトレンドとして意識されているのはどんなものでしょうか?
健康志向の高まりや高齢化に伴い、減塩へ意識を向ける方が増えています。だから、私たちも塩を抑えつつ、いかに旨みやコク味を引き出して、おいしく食べていただける商品を生み出せるかを常に考えています。一般的には塩の量を減らすと、味が落ちる印象があるので、それを打開すべく、スタッフが日夜頑張っています。
ちなみに、宮島醤油の減塩シリーズは国立循環器病研究センターが認定する「かるしお認定」を受けています。「かるしお」は、「塩をかるく使って美味しさを引き出す」という減塩の新しい考え方です。はじめて認定されたのは、2020年の9月で「減塩うどんそばストレートスープ、減塩ステーキスパイス、減塩ビーフカレー」の3商品です。そして、2021年の3月に「減塩パスタソースシリーズ」と「減塩うどんそばスープ(粉末)」も認定されました。
ちなみに、「減塩ビーフカレー」はレトルトカレーとして、「減塩パスタソースシリーズ」はパスタソースとして初めてのかるしお認定商品です。
宮島醤油のかるしお認定商品の数々。人気の「うどんスープ」のかるしお認定商品もあり。
ーー毎年3月と9月に新商品を発売されているとのことですが、最近発売された新商品はどんなものですか?
今年は6月にも新商品を発売しました。「高千穂焦がしバター焼肉のたれ」で、宮崎県の南日本酪農協同株式会社とのコラボ商品で、焦がしバター香る濃厚な味わいが楽しめる焼肉のたれです。焼肉以外にも野菜炒め、チャーハン、白身魚のソテーなどいろいろなお料理にお使いいただけます。
「高千穂焦がしバター焼肉のたれ」は、焦がしバターを効かせ濃厚でコクがあり、やみつきに!
ーー老舗企業ながら、トレンドに合わせて、常に新規事業を開拓されているんですね。これからも、ぜひ新しい佐賀の味覚を発掘していただきたいです……!
はい、もちろんです! 時代のニーズに応えることはもちろん、地域の特色を生かした商品を生み出し続けられる企業を目指して、頑張ります!